むかしむかし、武蔵野の入り口に雑木林に囲まれた大塚村のお話しです。
この大塚村には、ずうっと昔から神様にお仕えする使者という銀色をしたきつねが棲んでいると言い伝えられている鎮守様がありました。
むかし、雪深い冬の日に、お侍さんが村の雑木林道に迷い込んでしましました。
その時、どこからともなく、雑木林の中から銀色の髭のキコリのおじいさんがあらわれて村の鎮守様に招き入れて、一膳のご飯をごちそうしてあげたそうです。
お侍さんは、たいへん感謝して、そのお礼にと鎮守様に願をかけて、もっていた銀の鈴を奉納したそうです。
のちに、このお侍さんは、鎮守様に願いが通じて文武に優れた武将となり、やがて武蔵の名のある武将へと出世したそうです。
むかしから、この大塚村では毎年秋になると、村人たちは農作物の収穫を村の鎮守様に、お供えすることがしきたりとなっておりました。
ある年、鎮守様にお供えする為に用意しておいた作物が、一晩で納屋から一つ残らずなくなってしまいました。
翌朝、村は大騒ぎになり、村人たちは、作物の行方を探すためにみんなで手分けして、毎日毎日、隣の村や、またその隣の村へと探しにでかけました。
しかし、作物はどこにもありませんでした。
とうとう、雑木林の木々もだいぶ色づき、秋も深まりはじめいていきました。
そんな、秋の日の朝、町の商家の小僧さんが、荷車をひいて村に薪を集めにやってきました。
小僧さんは、村人から村の一大事の話を聞き、すなおな気持ちから困っている村人たちを、何とかしてあげたい思い作物を探す手伝いをさせてほしいと村人たちに申し出ました。
そして小僧さんも加わって色々探しましたが、なかなか作物の在りかも、犯人も見つかりませんでした。
日増しに、 だんだん、みんなの顔には、焦りと疲れがではじめてきました。
やがて、冬を告げる雪の日、こんどは銀色髭のキコリのおじいさんが村を訪ねてきました。
銀色髭のキコリのおじいさんは、何やら心当たりがあるとのことで、作物を探す手伝いに加わりました。
そして、雪の中を銀色髭のおじいさんの案内で、村人たちと小僧さんは雑木林の中をしばらく進んで行くと、大きな三本のけやきの木が目に入りました。
そして、みんなはその木立の前で立ちどまりました。
その三本のけやきの下には、扉のついた家より大きなホラ穴がありました。
そのホラ穴を村人たちが、音お立てずにゆっくりとのぞいてみたところ、中にはぎっしり詰まった村の作物が山積みにされていました。
村人たちは、それを見てびっくりしました。
あわてて村人たちは、あたりを見渡しましたが、しかし、そこには人影は見当たりませんでした。
村人たちは、誰がこんなところに、作物を隠していたのか不思議に思い、ホラ穴の近くでようすを見ることにしました。
村人たちが様子をみてる間に、小僧さんは、急いで近くの村まで、三本けやきのホラ穴のことをを聞きにいきました。
すると、そのホラ穴には、鬼が住むという言い伝えがあり、だれもそのホラ穴には、近づかないということでした。
小僧さんは、急いで村人たちのところへもどり近くの村で聞いていたことを村人たちと銀色髭のきこりのおじいさんに話しました。
小僧さんの話を聞いた銀色髭のキコリのおじいさんは、すぐに村人たちに、作物を持って帰るように話をしました。
銀色髭のキコリのおじいさんは、悪いことをしたそこに住む鬼をこらしめることにしました。
村人たちが作物を持って帰った後、小僧さんと銀色髭のキコリのおじいさんは、ホラ穴の中で焚き火にあたりながら、鬼が帰ってくるのを待ちました。
すばらくすると、小僧さんは、疲れがだんだん出できて焚き火の横で、ぐっすり寝入ってしましました。
すると、なにやら突然、ホラ穴の外で大きな物音がしました。
その物音に、小僧さんはびっくりして目をさましました。
おそるおそる、小僧さんは、ホラ穴から外をのぞいて見ると、銀色の髭のある天狗が、鬼を退治しているではありませんか。
銀色の髭のある天狗が、鬼を銀色の髭の天狗のはいている一本歯の下駄で、押さえつけていました。
さらに銀色の髭の天狗は、手にもっている八手のうちわで、鬼にむかってゆっくりとひと振り、また、ひと振りしました。
すると、鬼はやがて改心して、悪事の数々を謝りだしました。
その様子を見て、小僧さんはびっくりして外へ飛びだしました。
鬼は、これからは人間に 迷惑をかけずに、人の役にたって生きることを、銀色の髭の天狗と小僧さんに約束しました。
小僧さんもその言葉を聴いて、ひと安心しました。
鬼の悪い心を封じ込めた銀色の髭の天狗は、素早くけやきの木立を駆け登り、空を飛ぶように姿を消してしまいました。
その光景を目にした小僧さんは、まるできつねにつままれたかの様な顔をしてその場に立ちすくんでいました。
また、ホコラでいっしょだった、銀色の髭のキコリのおじいさんの姿もその場にはありませんでした。
そして、三本けやきの辺りには、悪事をはたらいた鬼の姿もなくなりました。
小僧さんは、あたりを見渡すとけやきの木立の上に、ミミズクがとまっているのに気がつきました。
たぶん、銀色の髭の天狗によって、鬼がミミズクにかえられたのだと小僧さんは思いました。
気を取り直した小僧さんは、急いで村まで帰り、このいきさつを村人たちにはなしました。
話を聞いた村人たちは、何がなんだかわからず驚きと嬉しさで大き声をはりあげました。
やがて、事の次第がだんだんわかってきた村人たちは、気持ちを落ち着かせ、小僧さんに感謝の気持ちを伝え始めました。
しばらくすると、村の長が、感謝の気持ちとして鎮守様に大切に祭られている銀の鈴と荷車いっぱいの薪を小僧さんにお礼にと差し上げました。
小僧さんは、なんでこんなにたくさんの薪と大事な銀の鈴をいただけるのか、わかりませんでした。
小僧さんは、素直に村人たちの気持ちを受け取り、深々と頭を下げて、村をあとにしました。
町にかえった小僧さんは、村人たちからお礼にもらった銀の鈴を大切にして、奉公に励みました。
もちろん、村人たちの感謝の気持ちことは、ひと時も忘れず、そして銀色髭の天狗とであった一部始終も心の中に大切にとめておきました。
やがて、小僧さんは江戸の町で大勢の人に信頼され、立派な豪商になりました。
そして立派な豪商になった小僧さんは、何年過ぎたか、わかりませんが、むかしであったの村人たちの気持ちと銀色髭の天狗に対するお礼として、たくさんの品物をもって村まで出向きました。
自分が立派な豪商になれたのは、みな、村人たちと銀色髭の天狗のおかげだと感謝をこめて、たくさんのお礼の品物を村人たちに差上げました。
そして、村から帰る途中、鎮守様によって、村人から頂いていた銀の鈴を鎮守様にお返ししました。
銀の鈴を奉納した小僧さんの顔は、どことなく銀色髭のきこりのおじいさんの面影が宿っていましたとさ。